障害のある方が就労や進路を考える際、「障害をオープンにするか、クローズにするか」という選択に悩む場面は少なくありません。支援員として関わる私たちも、その葛藤にどう寄り添い、どう整理を支援するか、日々模索しています。
この記事では、支援員視点からオープン・クローズのメリット・デメリットを整理し、利用者が納得して選択できるような支援のあり方を考えます。
障害の「オープン」「クローズ」とは?
まず前提として、就労の場面で「障害をオープンにする」とは、企業や学校に対して自分の障害を開示することを指します。一方「クローズ」とは、障害を開示せず、一般枠での応募を行うことです。

求人票にも違いあるのですか?



ハローワークの求人票に(障)と最初に書かれています。また、障害者枠や配慮枠と呼ばれる求人ですが、障害をオープンにするにはメリットもデメリットもあります。
オープン・クローズのメリット・デメリット
以下に、障害をオープン・クローズにする際の主なメリット・デメリットを表にまとめました。
選択 | メリット | デメリット |
---|---|---|
オープン | ・配慮を受けやすい ・支援機関と連携しやすい ・職場環境のミスマッチが起きにくい ・見学、実習ができることも多い | ・選考のハードルが上がる場合がある ・障害者手帳を求められる ・給料が低い傾向 |
クローズ | ・応募先の選択肢が広がる ・スキルや経験が重視されやすい ・給料が高い | ・配慮が受けにくい ・転勤、残業等体調や特性に合わない環境になる可能性 ・支援機関との連携が難しくなる |
障害をオープンにすると「配慮を受けながら自身に合った働き方」になりやすいのに対し、クローズの場合は「給料の高さや応募先の選択肢が多い」ことに対し、即戦力を求められたり転勤や異動、残業、休日出勤などで体を壊すリスクが高まります。
企業は「長く働いてほしい」という願いと「障害者がどのような方か分からない」という背景からオープンの場合は会社の見学や職場実習していることも多い。
法定雇用率について
企業は従業員の総人数に対し、一定の人数の障害者を雇う義務があります。
この人数を法定雇用率と呼ばれており、大手の企業であればあるほど「精神障害」「発達障害」「身体障害」の方の雇用に関心をもっており、ハローワークや就労移行支援とも繋がっていることも多いです。
また、法定雇用率については以下の記事を参照してください。
決めるのは支援員ではなく「本人」



私が支援現場を見てきてよく思うのは、支援員が方向性を決めてしまうとその方は長く仕事が続きません。支援者はあくまでサポートや方向性の整理を行い、自分で納得してもらう必要があります。
「オープンにした方がいいですよ」「クローズの方が通りやすいですよ」といったアドバイスは、時に本人の意思決定を妨げることがあります。
支援員は、情報を整理し、選択肢を提示し、本人が自分の価値観や状況に照らして選べるように伴走する存在です。
例えば先ほどのオープン・クローズのメリットやデメリットのように、両方とも視点で整理を行い、最終的に決めるのは本人となります。
スキルの高い人が「オープン」を選んだ理由
私が担当していた利用者は、Excelなどのパソコンスキルや対人スキルも非常に高く、一般枠でも十分に通用する力を持っていました。しかしその方は「オープン」を選びました。私が担当したご利用者は不思議とスキルの高い方もオープンを選択する方も多く、その場合の事例としては理由があります。
オープンの働き方があると決めた理由
- 今は大丈夫でも、精神疾患を再発したくない
- 目先のお金よりも、そこで長く働いてからステップアップしたい
- 支援機関と連携しながら安心して働きたい
- 実習して、先輩の人柄を見てから応募を決めたい
「書き出すこと」で整理が進む



精神障害の方、発達障害の方も共通することですが、頭の中だけで考えると別の日に再度方向性をイチから考えてしまいます。書き出すことでアウトプットし、自分の奥底に考えている不安を整理します。
自分の希望や不安を書き出してみる
オープン・クローズの選択に悩むときは、多くの場合「不安」が心の中にあります。
- どんな働き方をしたいか
- どんな環境が苦手か
- どんな支援があると安心か
支援員と一緒に「整理」する
書き出した内容をもとに、支援員と一緒に整理することで、選択の軸が見えてきます。支援員は、本人の言葉を引き出し、選択肢を可視化する役割を担います。
以下は整理するときに私が意識していることです。
- できるだけ本人の言葉で紙に書き出す
- 支援員は導くヒントは行っても、決断は本人
- 導きたい方向性は事前に職員間で検討・相談
- 必要に応じてスケジュールなど視覚的ツールも用意
自身が所属している事業所間だけでは方向性も悩むこともあるかと思います。その場合はハローワークや相談支援員とも相談し、連携することで本人に合った方向性を決めることに繋がります。
また、もしハローワークに行くなどスケジュールを立てるときはカレンダーなども本人に書いてもらうことをおすすめします。


「手帳を先に取る」ことで選択肢が広がる
もし障害者枠として働くのであれば、法定雇用率を満たすためにも障害者手帳の取得が必須です。
私の担当の事例で言うと、「クローズで進めるつもり」と考えていても、「もしも途中で考えが変わった」「一般就労で全然採用されなかった」というときの場合に先に手帳を申請されていました。
手帳を取得するまでには2~3か月かかることも多いので、就職活動ぎりぎりになって進めると就職活動が進まなくなってしまいます。
「手帳を取る=オープンにする」ではありません。選択肢を持つための準備として、手帳取得を検討することは有効です。
本人へオープン・クローズのアプローチするときの注意点
オープンでもクローズでも、障害を持つ方にアプローチするときには以下の点に注意が必要です。
- ご利用者を否定しない。
- 伝える前に、相手の不安や悩みを聞く
- 本人が持っているスキルや知識、経験を引き出し、肯定する
- 急いで決めるのではなく、何度も話し合う
- 紙に書くなど必ず視覚化する
- 決めるのは本人
【障害福祉×心理学】支援現場で役立つ「認知のゆがみ」理解と対応法の記事でも解説しましたが、認知のゆがみから正しい判断ができなくなっていることもあるので注意が必要です。
また、自己効力感が低いことや面談で話してもワーキングメモリが低いということも多いため、まずは本人の言葉にしっかりと耳を傾けましょう。


まとめ:選択に迷うとき、支援員ができること
- 情報を整理し、選択肢を提示する
- 本人の価値観や希望を引き出す
- 書き出しや対話を通じて、選択の軸を明確にする
- 最終的な決定は本人に委ねる
障害をオープンにするか、クローズにするか。
その選択に「正解」はありません。大切なのは、本人が納得して選び、安心して前に進めることです。
支援員として、そのプロセスに伴走できることこそが、私たちの役割なのだと思います。