発達障害のある方にとって、複数の作業を同時にこなす「マルチタスク」は大きな壁となることがあります。仕事や日常生活の中で、電話対応をしながら資料作成を求められたり、複数の人から同時に指示を受けたりする場面は少なくありません。
この記事では、発達障害の特性に配慮しながら、マルチタスクの苦手を乗り越えるための具体的な対処法を5つ紹介します。
支援現場での実例や、合理的配慮の視点も交えながら、実践的なヒントをお届けします。
マルチタスクが苦手な理由とは?
支援員発達障害は性格ややる気とかではなく、脳の情報処理の仕組みが影響しています。
発達障害の特性と情報処理
発達障害のある方は、注意の切り替えや情報の整理が苦手な傾向があります。これは脳の情報処理の仕組みによるもので、同時に複数の刺激が入ると混乱しやすくなります。
具体的な困りごとの例
支援現場でもADHDやASDなどの発達障害の方と多く接してきましたが、以下のような困りごとなどがあります。
- 電話対応中に別の人から話しかけられると混乱する
- 複数のタスクを並行して進めると、どれも中途半端になる
- 優先順位が分からず、時間配分がうまくできない
合理的配慮とは?
合理的配慮とは、障害のある人が他の人と平等に活動できるように、環境や方法を調整することです。マルチタスクが苦手な人に対しては、以下のような配慮が考えられます。
| 配慮の内容 | 具体例 |
|---|---|
| タスクの分離 | 同時に複数の指示を出さず、1つずつ順番に伝える |
| 視覚的な整理 | ToDoリストやフロー図で作業手順を見える化する |
| 静かな環境 | 集中しやすい場所で作業できるようにする |
ただ、実際に障害者雇用で働いても合理的配慮がうまくいかないことで悩む人も多いです。職場での合理的配慮がされないとき、どう対応すべきかの記事でも紹介していますので、参考にしてみましょう。


マルチタスクの苦手を乗り越える5つの対処法



マルチタスクの対処法を具体的に紹介します。
1. タスクを「見える化」する
頭の中で複数の作業を管理するのは困難です。紙やデジタルツールを使って、やるべきことをリスト化しましょう。
- チェックリスト形式で「完了済み」が分かるようにする
- 優先順位を色分けする
- 1日の予定を時間軸で並べる



私が支援している方ではカレンダーも有効活用しています。


2. シングルタスクに切り替える
「マルチタスクをこなす」よりも「1つずつ確実に終わらせる」方が効率的です。作業を分割し、1つずつ集中して取り組むことで、ミスも減ります。
発達障害でなくても、人は3つ以上のタスクを抱えると効率が一気に落ちると言われています。
3. 作業環境を整える
周囲の音や視覚的な刺激が多いと、注意が散漫になります。静かな場所や、必要なものだけを机に置くなど、環境を整えることが大切です。
4. タイマーやアラームを活用する
時間管理が苦手な場合は、タイマーやスマホのアラームを使って作業時間を区切りましょう。ポモドーロ・テクニック(25分作業+5分休憩)なども有効です。
5. 周囲に伝える・相談する
「マルチタスクが苦手です」と伝えることは、合理的配慮を受ける第一歩です。支援者や上司に相談し、業務の進め方を調整してもらうことで、安心して働ける環境が整います。
支援現場での実例



障害者雇用の支援や仲立ち、定着支援を行っていると多くの悩みについて相談を受けてきました。
- 電話対応をすると全然作業ができない
-
電話対応する時間は10時から11時のみなど時間を決め、それ以外は別の業務に専念するように業務改良
- 緊急の仕事を言われると一気に緊張して作業が進まない
-
基本的にはルーティン業務。仕事の優先順位が変わる場合は具体的にいつまでか、期限も説明する
- お客さんから見える位置で仕事をするとどうしても気になる
-
上司と相談し、業務の場所を配置換えしてもらった
配慮事項は全て自分で言うのではなく、場合によっては支援員に仲立ちを行ってもらうのがおすすめ



もし就労移行支援など使わずに就職した方は、今の仕事にこだわるのではなく訓練と支援を受けながら働く方法も視野に入れてみましょう。


まとめ:苦手を「工夫」で乗り越える
発達障害のある方にとって、マルチタスクは確かに難しい課題です。しかし、合理的配慮と工夫を組み合わせることで、苦手を乗り越えることは可能です。
- タスクの見える化で混乱を防ぐ
- シングルタスクで集中力を活かす
- 環境調整で作業効率を高める
- 時間管理ツールでペースを整える
- 周囲との連携で安心感を得る
この記事が、マルチタスクに悩む方や支援者の方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。
