障害福祉の現場で支援者として面談に同席する中で、特に「休職」や「復職」のタイミングにおいて、企業と本人の間に生じる“すれ違い”の瞬間に何度も立ち会ってきました。復職は単なる「職場復帰」ではなく、本人の生活再建と企業の業務再構築が交差する繊細な場面です。
この記事では、休職・復職面談で見えた“すれ違い”の事例とその背景、支援者としての気づき、そして改善のヒントを共有します。
休職・復職面談で起きる“すれ違い”の構造
①「復職=完全復帰」と捉える企業
「復職するなら、以前と同じフルタイムで同じ業務をこなしてほしい」
「不安が強く、段階的に慣らしていきたい」
企業は“復職=フルタイム復帰”と捉えがちですが、本人は体調や環境に配慮しながら段階的な復帰を望むことが多く、ここに大きなギャップが生まれます。

復職できると思っても、やはり不安はどうしてもあります。



復職は上司が思っているよりもずっと負荷が大きいものです。段階的に業務を増やすのと、いきなり元通りは復職成功の確率が大きく変わります。
②「配慮=特別扱い」と感じる職場
「他の社員との公平性も考えたい」
「配慮がないと再発の不安がある」
復職にあたり、本人が求める配慮(業務量の調整、静かな席など)が、企業側には“特別扱い”と映ることがあります。職場の空気感や同僚の理解度も影響します。
また、上司も復職者の対応や精神障害の方の対応について経験値があるかないかで全く変わってきます。
③「本人の不安」と「企業の期待」のズレ
本人は再発への不安を抱えながら復職を考えていますが、企業は“安定的な勤務”を期待しています。この温度差が、面談の空気を微妙にします。
支援者として見えた“すれ違い”の背景
言葉の定義の違い
「復職」「配慮」「安定性」など、同じ言葉でも企業と本人で意味が異なることがあります。
言葉 | 企業側の定義 | 本人側の定義 |
---|---|---|
復職 | 以前と同じ業務に戻ること | 段階的に業務に慣れていくこと |
配慮 | 必要に応じて柔軟に対応 | 事前に明確な対応策がある |
安定性 | 長期的に勤務できるか | 無理なく働ける環境があるか |
“温度差”と“責任感”の違い
企業は「業務の安定性」を重視し、本人は「体調の安定性」を重視します。支援者はその間に立ち、両者の視点を翻訳する役割を担います。
- 企業:業務の継続性とチームへの影響を懸念
- 本人:体調や精神的負荷への不安が強い
- 支援者:両者の視点を整理し、橋渡しする
支援者としての対応と工夫
① 面談前の“復職プランの共有”
復職に向けた段階的なプランを事前に企業と本人に共有することで、すれ違いを減らすことができます。
- 本人の希望(勤務時間・業務内容・配慮事項)を整理
- 企業の期待(業務量・役割・チーム体制)を確認
- 支援者が“調整役”として両者の意見をすり合わせる
② 面談中の“補足と仲立ち”
本人が言葉にしきれない部分を、支援者が補足することで、企業の理解が深まります。
【補足の例】
本人:「週5勤務は不安です」
支援者:「まずは週3勤務からスタートし、体調に応じて段階的に増やすことで職場定着に繋がりますので、本人と企業側双方にとって良いと思います。」
③ 面談後の“振り返りと改善”
面談後に企業と本人それぞれにフィードバックを行い、次回に活かすことが重要です。
対象 | フィードバック内容 |
---|---|
企業 | 本人の体調・希望・業務適応の見通し |
本人 | 企業の期待・配慮の可能性・今後の課題 |
復職支援における“すれ違い”を防ぐために
復職は「再スタート」であり、「再構築」のプロセスです。すれ違いが起きたとしても、それを“気づき”に変えることで、次のステップにつながります。
復職前から復職後のフォローアップ
勤務時間や業務内容など無理なく徐々に行う
特別扱いではなく、職場定着に必要な配慮をすり合わせ
復職後も職場訪問することで、お高いの仲立ちを行う
まとめ:支援者の立場から見える希望
企業と本人のすれ違いは、言葉の定義や価値観の違いから生まれます。しかし、支援者が間に入ることで、そのギャップは埋めることができます。
復職面談という繊細な場面だからこそ、支援者が“翻訳者”として機能し、本人の不安と企業の期待を調整することが求められます。
そして何より、本人が「もう一度働きたい」と願う気持ちを、企業が「受け入れたい」と思えるような場づくりを、これからも支が必要です。