就労移行で本音を言えない人へ|「早く働きたい」と焦る前に知ってほしいこと

就労移行で本音を言えない人へ|「早く働きたい」と焦る前に知ってほしいことのアイキャッチ画像。男女が相談しているイメージ

「一日も早く就職して、安心したい」
「職員さんには頑張っている姿を見せないと、見捨てられるかもしれない」
「本当は毎日通うだけで精一杯。でも、そんな弱音を吐いたら就職が遠のいてしまう……」

就労移行支援事業所に通いながら、心の中でそんな葛藤を抱えていませんか?朝、重い体を引きずって事業所のドアを開け、スタッフの前では無理に作った笑顔で「大丈夫です」と答えてしまう。その健気なまでの頑張りを、私は支援員として数多く見てきました。

でも、私が支援員として見てきた中で、その「無理に頑張っている自分を演じている」という努力が、実はあなたの焦りを高め、理想の就職からあなたを遠ざけているかもしれません。

この記事では、なぜ本音を隠してしまうのか、そして「焦り」という魔物にどう立ち向かえばいいのか。現場での苦い失敗談も交えながら、これからの「本当の幸せ」に続く道についてお話しします。


目次

なぜ就労移行で本音を言えなくなるのか?

支援員

就労移行を利用される方の多くは、非常に真面目で責任感が強い方々です。だからこそ、いくつかの心理的な壁によって本音が心の奥底に封じ込められてしまいます。

①「早く働かなければ」という強迫観念に近い焦り

最も多いのが「お金」への不安です。

面談で「貯金が底をつきそうなので、最短で就職したい」と切実にお話しされる方は後を絶ちません。もちろん、生活がかかっている以上、それは無視できない事実です。

しかし、支援員として冷静に家計状況を整理してみると、実は「本当にお金がない」のではなく、「残高が減っていく数字を見て、自分の価値まで削られているような恐怖を感じている」ケースがほとんどです。

この漠然とした恐怖が、本音(体調の不安など)を覆い隠してしまいます。

本当はそこまで緊急でなくても、「お金が足りない」と言い続けることで逆に不安が大きくなる

②「期待に応えたい」という支援員への配慮

「せっかく支援員さんがカリキュラムを組んでくれたのだから、応えなきゃ」「休みを伝えたら、やる気がないと思われるかも」……。このようなこともよくあるのですが、支援員との関係が良好であればあるほど、相手を失望させたくないという心理が働き、本音が言えなくなります。

③「就職=ゴール」という誤解

就職さえすれば、今の苦しみから解放されるという思い込みです。そのためには、多少の無理は「隠し通すべきもの」だと判断してしまうのです。しかし、隠したままの就職は、後で説明するような大きなリスクを孕んでいます。

目の前の就職よりも、例え遠回りしてもじっくり訓練して職場定着した方が、数年後の収入に大きく変化がある



「本音を言わない」ことが招く、就職後の最大の不利益

支援員

本音を言わずに、無理をして就職を決める。これは例えるなら、「骨折しているのに、痛み止めを飲んでフルマラソンを走り始める」ようなものです。

合理的配慮の「ボタンの掛け違い」

障害者雇用において、企業側は「何に困っていて、どう助ければいいか」を知りたがっています。しかし、訓練中に「大丈夫です」と本音を隠していた人は、企業に対しても自分の弱みを正しく伝えることができません。

結果として、現場では「できるはず」と思われ、過度な業務を任されてしまいます。そこで初めて「実はできません」と言うのは、入社前よりも勇気が必要になり、結局体調を崩して退職へと追い込まれてしまうのです。

自己理解の不足によるミスマッチ

就労移行は、自分の「取扱い説明書(ナビゲーションブック)」を作る場所です。「これくらいなら疲れる」「この指示の出し方は混乱する」といった本音をスタッフにぶつけ、対策を練るプロセスそのものが、安定就労への最短ルートなのです。本音を言わないということは、自分の攻略法を完成させないまま戦場(職場)に出ることを意味します。

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【支援員の体験談】AさんとBさん、二人の結果

就労移行支援の事例比較図解。焦ってクローズ就職し3ヶ月で退職したAさんと、2年間じっくり本音を練習してオープン就労で2年以上継続しているBさんの対照的な結果を描いたアニメ風イラスト。

ここで、私が過去に担当した二人の利用者の事例をお話しします。これは特定の個人ではありませんが、現場で本当によく起こる典型的なケースです。

急いでクローズ就職したAさんのケース

Aさんは「一刻も早く自立したい」と、入所からわずか5か月で一般枠(障害を隠したクローズ就職)を選びました。

私たちは「もう少し体調を整え、障害特性への対策を立てませんか」と提案しましたが、Aさんの「お金がない、焦る」という意志は固く、私たちはその思いを優先して送り出しました。

結果は、3か月での退職でした。隠していた二次障害のうつ症状が悪化し、通勤すら困難になったのです。Aさんは「やっぱり自分はダメだ」と以前よりも深い絶望を抱えて、再度就労移行に戻ってこられました。「早く稼ぎたかったのに、結局、最初からやり直すことになってしまいました」というAさんの言葉が、今も耳に残っています。

2年間、じっくり「本音」を練習したBさんのケース

一方、Bさんは当初から「本音を言うのが苦手」と自覚しており、2年間のフル期限を使って訓練することを選びました。最初の1年は、体調の波を素直にスタッフへ報告する練習。次の半年は、自分の苦手なパソコン操作をどうフォローしてもらうかの言語化。最後の半年は、企業見学で「自分にできないこと」を誠実に伝える練習を行いました。

Bさんは2年かけて納得のいくオープン就労(障害者雇用)を掴みました。就職から2年以上経った今も、Bさんは同じ職場で元気に働いています。企業からは「Bさんは自分の状態を正確に伝えてくれるから、こちらとしても安心して仕事を任せられる」と、最高級の評価をいただいています。

比較項目焦って就職したAさんじっくり取り組んだBさん
利用期間5か月(最短志向)24か月(土台作り)
就労形態一般枠(クローズ)障害者雇用(オープン)
離職・定着3か月で退職、症状悪化2年以上継続中、昇給あり
トータルの収入短期的な給与のみ安定した給与+社会的信用

「早く働きたい」という焦りの正体と解消法

焦りは、あなたのやる気の裏返しでもあります。だから、焦る自分を責めないでください。ただ、その焦りに飲み込まれないための「心の処方箋」をいくつか提案します。

「今は準備のために与えられた時間」と考える

心療内科の先生が、焦る患者さんに贈った言葉があります。「今は将来、あなたが長く、自分の望んだ道に進むために、神様がわざと足を止めて準備をさせてくれている時間なんだよ」

この「お休み」ではなく「準備期間」という捉え方は、自己肯定感を守るために非常に有効です。

「2年間のフル活用スケジュール」を書いてみる

一度、あえて「2年間最後まで利用する」と仮定して、紙にスケジュールを書いてみてください。

1か月目はこれ、半年後はこれ……と埋めていくと、意外とやるべきことが多いことに気づくはずです。すると、「本当に自分に合ったスケジュール」について視覚的に理解でき、心が少し落ち着きます。

「もし親友が同じ状況だったら?」と想像する

自分には厳しい人でも、大切な友人が「焦って体調を崩しそう」と言っていたら、「まずはゆっくり休もうよ」と声をかけるはずです。認知行動療ワークでも使われるこの手法は、自分を客観視し、優しくするための第一歩です。



スタッフに本音を伝える「魔法のステップ」

いきなり「実は働きたくないんです!」と言う必要はありません。まずは10%だけ、本音の欠片(かけら)を外に出してみる練習をしましょう。

  1. 自分の悩みを、誰にも見せないノートに書き出す: まずは自分自身が「何が怖いのか」を言語化します。これだけで脳の負担が減ります。
  2. 「日報」や「ワークシート」の端に書いてみる: 対面で言うのが怖いなら、文字に頼りましょう。「今日は少し疲れやすかったです」という一行で十分です。
  3. 相談する「訓練」だと割り切る: 本音を言うことは、わがままではありません。職場での「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」の練習です。あなたが本音を言えば言うほど、支援員はあなたに合ったアドバイスができるようになります。
  4. 言いやすい部分を、1分だけ面談で話す: 「全部じゃないんですけど、少しだけ不安なことがあって……」と切り出すだけで、スタッフはあなたの味方になってくれます。
  5. 本音を言えた自分を、全力で褒める: 「言えた!一歩進んだ!」と自分に拍手を送ってください。これは立派な成功体験です。

そして最後に、スタッフにお礼を伝えてみてください。「聴いてくれてありがとうございます」という言葉は、相手との信頼関係を深めるだけでなく、職場で愛されるコミュニケーションの最高の訓練になります。


まとめ:就労移行は「失敗」と「本音」を練習する安全な場所

就労移行支援事業所は、完璧な自分を見せる場所ではありません。むしろ、「自分はここが弱いです」「今はこれができません」と、安心して失敗し、本音をさらけ出すための「安全な実験室」です。

ここで本音を隠してしまったら、本当の職場で誰があなたを守れるでしょうか?

私が新入社員だった頃、ご利用者の「お金がない」という言葉を鵜呑みにして焦らせてしまい、結局体調を崩させてしまった苦い経験があります。その時学んだのは、支援員の役割は「背中を押すこと」だけではなく、時には「ブレーキを一緒に踏んであげること」なのだということです。

あなたは、一人ではありません。あなたが本音を漏らしたとき、支援員は「なんだ、やる気がないのか」なんて思いません。「ようやく、本当のサポートができる」と、心から嬉しく思うのです。

焦る前に、まずは深呼吸を。そして、次の面談で、ほんの少しだけ「本当の気持ち」を教えてください。そこから、あなたの「本当の訓練」が始まります。

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