「障害者雇用で働き始めたけれど、職場の暗黙のルールが分からない」
「必要な配慮を受けているはずなのに、周囲に理解してもらえていないと感じる」
「体調が悪くて休んだとき、会社や支援員にどこまで伝わっているのだろう?」
障害者雇用で働いていると、仕事そのものだけでなく、職場の人間関係や暗黙のルールに悩むことがあります。
障害者雇用では、障害の特性に応じた配慮を受けながら働ける場合があります。しかし、配慮を受けているからといって、職場で求められるすべてのルールがなくなるわけではありません。
一方で、職場のルールをすべて自分で察したり、困りごとを一人で解決したりする必要もありません。企業側にも、必要な配慮を検討し、働きやすい環境を整えることが求められます。
この記事では、現役の就労支援員の視点から、障害者雇用で働く人が知っておきたい暗黙のルールと、職場で困ったときの対処法を解説します。
これから障害者雇用で働く人も、すでに働いていて悩んでいる人も、今後の働き方を考える参考にしてください。
障害者雇用の暗黙のルールとは?
障害者雇用の暗黙のルールとは、就業規則やマニュアルに明確に書かれていなくても、職場で働くうえで自然に求められる行動やマナーのことです。
例えば、次のようなものがあります。
- 出勤したときに挨拶をする
- 仕事で困ったときに上司や担当者に相談する
- 欠勤や遅刻をするときは、決められた方法で連絡する
- 仕事の優先順位が分からないときは確認する
- 自分の仕事が終わったときに、次に何をすればよいか相談する
- 職場で決められたルールや手順を確認する
こうした行動は、障害者雇用に限らず、多くの職場で大切にされています。
ただし、どのような行動が求められるかは、企業の方針や職種、職場環境によって異なります。すべての職場に共通する絶対的なルールというわけではありません。
また、暗黙のルールが分からないこと自体を、本人の努力不足と決めつけるべきではありません。職場側が明確に説明していない場合もあれば、障害の特性によって、周囲の意図を読み取ることが難しい場合もあります。
支援員大切なのは、分からないことを放置せず、具体的に確認できる方法を身につけることです。
障害者雇用で知っておきたい暗黙のルール7選
1.配慮を受けていても、職場全員が障害について理解しているとは限らない
障害者雇用では、障害の特性や本人の希望に応じて、仕事の進め方や職場環境について配慮を受けることがあります。
例えば、次のような配慮です。
- 口頭だけでなく、文章やメモでも指示を伝える
- 新しい仕事を覚えるまで、十分な時間を確保する
- 業務の手順をマニュアルにまとめる
- 定期的に上司と面談する
- 集中しやすい座席や作業環境を検討する
ここで知っておきたいのは、配慮の内容が職場で共有されていても、障害名や障害に至った背景まで、職場全員が知っているとは限らないということです。
企業によっては、障害に関する詳しい情報を管理職や人事担当者など、必要な範囲の人だけが把握し、現場の社員には業務上必要な配慮事項を伝えている場合があります。
これは、本人のプライバシーを守るためにも大切な考え方です。
しかし、本人が「自分の障害について職場全員が理解しているはず」と思っていると、認識のずれが生まれることがあります。
例えば、本人は集中力の維持が難しいことを会社に伝えていても、同僚はその事情を知らず、仕事の進め方について疑問を持っているかもしれません。
本人からすると「どうして分かってくれないのだろう」と感じることもあるでしょう。
ただし、障害の情報を職場全員に伝えれば解決するとは限りません。情報を共有する範囲や内容は、本人の意向やプライバシーに配慮しながら検討する必要があります。
【困ったときの対処法】
必要な配慮が周囲に伝わっていないと感じたら、まずは上司や人事担当者、定着支援員などに相談してみましょう。



その際は、障害名を周囲に伝えてほしいと求めるだけでなく、仕事上どのような配慮が必要なのかを具体的に整理することが大切です。
例えば、「指示を受けた後に確認する時間を設けてほしい」「作業手順をメモで確認できるようにしてほしい」など、実際の業務に結びつけて相談すると、対応を検討しやすくなります。
2.挨拶や報告・連絡・相談は、配慮とは別に考える必要がある
体調が悪い日や、気持ちが落ち込んでいる日もあるでしょう。人と話すこと自体が負担になる場合もあります。
そのようなときに、無理に明るく振る舞ったり、周囲と積極的に雑談したりする必要はありません。
ただし、職場では、挨拶や業務上必要な報告・連絡・相談が求められることがあります。
障害者雇用だからといって、挨拶や報連相がすべて不要になるわけではありません。
例えば、体調が悪くて普段どおりに話すことが難しい場合でも、会釈をする、短い言葉で挨拶する、必要な連絡を文章で伝えるなど、負担を抑えた方法を検討できます。
一方で、障害の特性や症状によって、挨拶や会話、報告をすること自体が難しい場合もあります。そのような場合は、本人の努力だけに任せず、職場と具体的な方法を相談することが大切です。
【困ったときの対処法】
挨拶や報連相が苦手な人は、まず、どの場面で何を伝えればよいかを整理してみましょう。
- 出勤時は「おはようございます」と伝える
- 仕事が終わったら、担当者に完了を報告する
- 作業が止まったら、困っている内容を伝える
- 体調が悪い場合は、決められた方法で相談する
毎回臨機応変に対応するのが難しければ、よく使う言葉をメモしておくのも一つの方法です。
大切なのは、完璧なコミュニケーションを目指すことではなく、仕事に必要なやり取りを自分に合った方法で行えるようにすることです。
3.欠席が続くと、会社から定着支援員に連絡がいくことがある
障害者雇用で働いている人の中には、体調不良で休んだことを、定着支援員に知られたくないと感じる人もいるかもしれません。
「欠席が続いていることを知られたら、注意されるのではないか」「自分で解決したい」と考えることもあるでしょう。
しかし、就労定着支援などを利用している場合、欠席や遅刻が続いた際に、企業から支援者へ状況の確認や相談が行われることがあります。
例えば、次のような状況です。
- 体調不良による欠席が何日も続いている
- 遅刻や早退が増えている
- 出勤しても体調が安定せず、仕事を続けることが難しい
- 職場が今後の勤務について対応を検討している
企業が支援者に連絡する理由は、本人を責めるためだけではありません。今の状況を確認し、勤務を続けるために必要な支援や対応を検討する目的もあります。



ただし、企業から支援者への連絡が必ず行われるわけではありません。本人との取り決めや支援体制、情報共有の範囲などによって異なります。
また、欠席の情報を誰に、どこまで共有するかについては、本人のプライバシーや同意、関係する制度・契約などに配慮する必要があります。
【困ったときの対処法】
欠席が増えているときは、支援員に知られないようにすることよりも、今の体調や困っていることを整理し、必要な支援につなげることを考えてみましょう。
例えば、次のようなことを相談できます。
- 朝起きることが難しくなっている
- 通勤時の負担が大きくなっている
- 仕事のストレスが体調に影響している
- 欠席や遅刻を減らすための方法を考えたい
欠席が続く背景には、体調の変化や職場環境の問題が隠れている場合もあります。本人を責めるだけでなく、原因を整理して対策を検討することが大切です。
4.配慮があるからといって、仕事のスピードや成長が求められないわけではない
障害者雇用では、仕事を覚えるまでに時間が必要な場合や、作業を進めるうえで特定の配慮が必要な場合があります。
例えば、次のような対応です。
- 新しい業務を段階的に教えてもらう
- 作業手順をメモに残す時間を確保する
- 分からないことを質問できる時間を設ける
- 作業を細かい工程に分けて教えてもらう
こうした配慮によって、仕事を覚えやすくなったり、ミスを減らしたりできることがあります。
ただし、仕事を覚えるまでの時間に配慮してもらえることと、仕事のスキルアップが求められないことは別です。
企業は、本人の担当業務や雇用条件、職場での役割などに応じて、仕事の習得や一定の業務遂行を期待することがあります。
例えば、入社直後はメモを取りながらゆっくり作業していても、業務に慣れてきたら、少しずつ作業時間を短縮したり、一人で対応できる仕事を増やしたりすることが期待される場合があります。
一方で、すべての人に同じ速度や成長ペースが求められるわけではありません。必要な配慮や業務上の目標は、本人の特性や能力、職務内容などを踏まえて検討する必要があります。
【困ったときの対処法】
仕事のスピードについて指摘され、どう改善すればよいか分からない場合は、具体的に確認してみましょう。
- どの作業に時間がかかっているのか
- どの程度の作業時間を目標にしているのか
- スピードと正確性のどちらを優先するのか
- 効率よく作業するために、どのような工夫ができるのか
例えば、「正確に作業することを優先していますが、今後はどのくらいの時間を目標にすればよいでしょうか」と質問する方法があります。
もし、求められる作業量や速度が障害の特性と合わず、体調を崩してしまう場合は、本人の努力だけで解決しようとせず、上司や人事担当者、支援員などと業務内容や配慮について相談することも必要です。
5.障害者雇用でも、無断欠勤が当然に認められるわけではない


体調不良やメンタル面の不調があると、会社に連絡すること自体が難しくなる場合があります。
ただし、障害者雇用だからといって、連絡をしないまま欠勤しても問題にならないわけではありません。
多くの職場では、欠勤や遅刻をする場合に、決められた方法で連絡することが求められています。
連絡がないと、会社は本人が出勤するのか、事故や体調の急変が起きていないか、仕事をどのように調整すればよいかを判断できません。
また、無断欠勤が繰り返されると、職場との信頼関係や雇用の継続に影響する可能性もあります。
もちろん、本人が意図的に連絡を怠っているとは限りません。強い不調や障害の特性によって、連絡することが難しくなる場合もあります。
【困ったときの対処法】
体調が悪いときでも連絡しやすいように、あらかじめ会社と連絡方法を確認しておくと安心です。
- 誰に連絡するのか
- 電話とメールのどちらを使うのか
- 何時までに連絡するのか
- 電話が難しい場合は、どのような方法を使えるのか
- 本人が連絡できないほど体調が悪い場合、どのように対応するのか
例えば、電話で状況を説明することが難しい場合、会社のルールに沿って短いメッセージで連絡できるか相談しておく方法があります。
また、連絡すること自体が難しくなるほど体調が悪化している場合は、その背景について主治医や支援員などに相談し、必要な対応を検討することも大切です。
無断欠勤を避けるためにも、元気なときに連絡方法を決めておきましょう。
6.障害者雇用でも、部署異動や担当業務の変更が生じる場合がある
「障害者雇用で採用されたのだから、ずっと同じ部署で働けるはず」と考えている人もいるかもしれません。
しかし、部署異動や担当業務の変更があるかどうかは、企業の雇用条件や就業規則、本人の職務内容などによって異なります。
障害者雇用では、本人の特性や必要な配慮を踏まえて、担当業務や配置について調整することがあります。企業によっては、異動や担当業務の変更を検討する際に、本人や支援者と相談する場合もあります。
一方で、障害者雇用だからといって、異動が必ず事前相談になるとは限りません。企業の状況や雇用契約、業務上の必要性などによって、対応は異なります。
ただし、異動によって障害に関する配慮が必要になる場合は、本人の状況を踏まえ、必要な配慮について検討することが重要です。
【困ったときの対処法】
異動や担当業務の変更に不安がある場合は、次の点を確認してみましょう。
- 異動後に担当する業務の内容
- 勤務時間や通勤方法などへの影響
- これまで受けていた配慮を継続できるか
- 新しい業務を覚えるために必要な支援
- 不安や困りごとを相談できる担当者
例えば、「新しい部署でも、これまでと同じように作業手順をメモで確認できますか」と具体的に相談すると、必要な配慮を検討しやすくなります。
異動そのものが不安な場合も、理由や今後の見通しを確認し、必要に応じて人事担当者や支援員などに相談してみましょう。
7.仕事の優先順位が分からないときは、自分から確認することも大切
障害者雇用では、仕事の進め方が分かりやすいように、作業手順や優先順位を明確に伝える配慮が行われることがあります。
例えば、上司が「今日はこの作業を先に終わらせてください」「こちらの仕事は午後からで大丈夫です」と具体的に指示する方法です。
このような指示があると、複数の仕事を同時に進めることが難しい人でも、取り組む順番を整理しやすくなります。



ただし、仕事の状況は変化するため、最初に指示された優先順位が、その後もずっと変わらないとは限りません。
また、複数の仕事を頼まれたときに、どれを先に進めればよいか分からなくなることもあります。
そのような場合は、上司から指示されるのを待つだけでなく、自分から確認することも大切です。
【困ったときの対処法】
仕事の優先順位が分からなくなったときは、例えば次のように確認できます。
- 「今取り組んでいる作業と、こちらの作業では、どちらを先に進めればよいでしょうか?」
- 「こちらの仕事も依頼されましたが、今の作業は中断してよいですか?」
- 「今日中に終わらせる必要がある仕事を確認してもよいでしょうか?」
確認することは、仕事ができないことを意味するわけではありません。優先順位を確認することで、納期の遅れや作業ミスを防ぎやすくなります。
ただし、指示が曖昧だったり、上司によって指示が異なったりする場合は、本人だけで解決する必要はありません。業務の進め方を明確にしてもらえるよう、職場に相談することも大切です。
働きた時の困りごととして、以下の記事もおすすめです。


障害者雇用で暗黙のルールに困ったときの対処法


ここまで、障害者雇用で働く際に知っておきたい7つの場面を紹介しました。
暗黙のルールが分からず困ったときは、すべてを自分で察しようとするのではなく、次の方法を試してみましょう。
1.分からないことを具体的な質問に変える
職場のルールが分からないときは、「どうすればよいか分かりません」と伝えるだけでなく、何が分からないのかを整理して質問してみましょう。
例えば、仕事の優先順位が分からない場合は、「今の作業と新しく依頼された作業のどちらを先に進めればよいですか」と確認します。
質問を具体的にすると、相手も回答しやすくなり、次に取るべき行動が明確になります。
2.職場で確認したルールをメモに残す
一度説明されても、後から忘れてしまうことはあります。
そのため、職場で確認したルールや手順は、メモやチェックリストに残しておくと便利です。
例えば、欠勤時の連絡方法、仕事の完了報告をする相手、優先順位を確認するタイミングなどを整理しておくと、同じ場面で迷いにくくなります。



メモを作成するときは、会社の情報管理ルールに従い、個人情報や機密情報を適切に扱いましょう。
3.上司や人事担当者に必要な配慮を相談する
職場のルールを確認しても、仕事を進めることが難しい場合は、必要な配慮について相談してみましょう。
例えば、口頭での指示だけでは理解しにくい場合、文章やメモで指示を受ける方法を相談できます。
また、複数の仕事を同時に進めることが難しい場合は、優先順位を明確に伝えてもらう方法を検討することもできます。
配慮を相談するときは、困っていることだけでなく、「どのような対応があれば仕事を進めやすくなるか」も伝えると、具体的な検討につながりやすくなります。
4.一人で解決できないときは、支援員に相談する
上司に相談しにくい場合や、必要な配慮について職場と話し合うことが難しい場合は、定着支援員などの支援者に相談する方法もあります。
支援者は、本人の困りごとを整理したり、必要に応じて企業との話し合いを支援したりすることがあります。
ただし、支援者がどこまで対応できるかは、利用しているサービスや支援機関との契約、本人の意向などによって異なります。
相談するときは、困っている場面、これまで試したこと、今後どうしたいかを簡単に整理しておくと、話を進めやすくなります。



定着支援以外にも活用できる窓口はたくさんありますので、以下の記事でまとめました。


障害者雇用では、本人の努力だけでなく職場環境の調整も大切
この記事では、障害者雇用で知っておきたい暗黙のルールと、困ったときの対処法を紹介しました。
障害者雇用でも、挨拶や報連相、欠勤時の連絡など、職場で求められる基本的なルールがあります。必要な配慮を受けていることと、仕事上の責任をすべて免除されることは同じではありません。
一方で、暗黙のルールをすべて自力で理解したり、障害による困りごとを本人の努力だけで解決したりする必要もありません。
企業側にも、障害の特性や本人の状況を踏まえ、必要な配慮を検討することが求められます。
職場のルールが分からないときは、具体的に確認する。必要な配慮が足りないと感じたら、上司や人事担当者、支援員などに相談する。
こうした行動を積み重ねることで、本人と職場の認識のずれを減らし、働きやすい環境を整えられる可能性があります。
もし、何度相談しても状況が改善しない場合や、働き続けることで体調を崩してしまう場合は、今の職場で働き続けることだけにこだわらず、支援機関などと今後の働き方を考えることも大切です。
一人で抱え込まず、自分に合った方法で相談しながら、無理なく働き続けられる環境を考えていきましょう。
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